「1999年の夏休み」写真集V(薫の正体〜エンディング)
薫が一人、手紙を読んでいる。 悠の遺書。 「もし君がこの手紙を読むことがあるとすれば、 そのとき君は、僕を赦してくれるだろうか・・・・」 |
|
直人が手紙を奪い、放り投げる。 「君は、死んだ。・・・・君は、生まれた」 「君の恋のたくらみは、見事に叶ったんだ・・・。 そうだろ、薫。・・・・いや、悠!」 ランプをかざし、逃げる薫を追う直人。 |
|
則夫が人形を操る。 まるで、予言のように・・・。 「直人は、薫が憎い。 二人が行くのは、悠が死んだ、 崖・・・・。」 |
|
「君は、和彦を独占したかったんだね」 「そうだよ。」 直人の和彦への想い。 和彦には知られないように、悠の死を喜び、 薫の存在を疎む。 「薫」 「何」 「飛び降りろ。見届けてやるよ。 二度と戻ってこないように、 君の死を確かめてやる。 ・・・・さあ、落ちろよ!」 「直人・・・やめてよ。やめてよ!」 |
|
「何してるんだ!」和彦が現れる。 「こんなところへ君が現れるとはね・・・。 僕にはツキもない。」 直人が去る。 「一体なにがあったんだ」 「直人は君が好きなんだ。知ってた?」 「いや・・・」 |
|
「僕は、君が好きだよ、薫。 君のことが、好きになったんだ」 「どのくらい・・・?」 「僕は、誰も愛したことが無かった。 決して壊れないカプセルの中にいた。 そこは、安全地帯だった。 誰も愛したことがなかったから、 僕はその出来事に幼くて、 愛されることに怯えていた・・・」 「・・・だからさ、どのくらい僕を好きなの」 |
|
薫に優しく口付ける和彦。 和彦の中に、 静かに芽生えた愛という名の感情。 |
|
「和彦」 「何」 「僕は・・・・悠だよ」 薫が微笑む。 「君に思い知らせてやりたかった。 僕は生まれ変わって、君から愛されたかった。 そうして今度は僕が冷たくしたかった」 「僕を、赦してはくれなかったんだね・・・」 「君が赦される方法はたったひとつさ」 「教えて」 「僕と一緒に、死ぬことさ」 |
|
「一緒に死のうよ。子供の時間は、一番 すばらしいんだから。一緒に死んで、 生まれ変わろうよ、子供にさ。そして子供のまま また死んで、死んだ数ぶん、生まれ変わろうよ・・」 「・・・いいよ。一緒に死ぬよ」 |
|
「やめろ!」 直人が戻ってくる。 「直人、僕は君が言ったとおり悠さ! そして君が言ったとおりここから落ちて死んで あげるよ。だけど一人じゃいやだ・・・・ 和彦を連れていくよ!」 |
|
薫が和彦の手を引いて崖から落ちる。 「違う・・・!僕が望んでいたのは、 こんな結末じゃない・・・!」 直人も、崖に飛び込む。 |
和彦が目覚める。 「夢を見ていた。悠の夢・・・・。 悠は僕を赦してくれた。僕はなんだか、 生まれ変わったような気がする・・」 「君しか、助けることは出来なかった・・・」 悠――、薫は、湖に消えてしまった。 |
|
あたりが夕焼けに染まる。 「子供のころ、 夕焼けを見て泣き出したことがあった・・・」 蘇る、和彦の幼いころの孤独な思い出。 「赦して、薫・・・」 直人は告白する。 和彦を護りながら、時を止め続けた事を。 「僕は君の心が凍っているのを知っていた、 知っていて、黙って見ていた・・・。」 「直人、僕は君が好きだよ」 和彦は、直人の想いを受け止める。 生まれたての心で。 |
|
蜩が鳴く。 「夏休みが、終わるね。」 「ああ、新学期が始まる」 「うん・・・・」 夏の終わりと共に。 |
和彦が崖に白い花を手向ける。 悠に、そして、薫に・・・・。 |
|
そこに、一人の少年が現れる。 少年は悠に、薫に似ている。 しかしその左手の薬指には、指輪は光らない。 「君は、悠?それとも、薫?」 「どちらでもないよ。僕は転校生なんだ。 明日の新学期から、よろしくね」 |
|
少年が握手を求める。 和彦が笑顔で応える。 「案内するよ」 |
|
則夫と直人が現れる。 少年に微笑む。 則夫が言う。 「僕たちは、これからはじまるんだね」 「ああ」 和彦が言う。 「僕は忘れないよ。この夏休みを。 この年の、夏休みを――――」 「うん!」 則夫が笑う。直人も微笑む。 |
|
直人がふと、振り返る―――。 |
|
私がまだなにも知らなかったあの年の夏休み。 世界がそれまでとは全く違って見えるようになった。 いや、実は私自身が卵の殻を破って 変貌したのであろう。 今でもはっきりと思いだすことが出来る。 あの年の夏休み。 まるで、まだ昨日のことのような 気がしてならない――――――。 |