「1999年の夏休み」写真集T(オープニング〜和彦の罪)
満月の夜、一人の少年が湖に身を投じた。少年の名は、悠。
「僕らは、卵から生まれた少年という名前の鳥なんだ・・・・・・・・・・・・」
「僕は、僕の卵を壊して羽ばたく。それから飛ぶ。
――――彼に向かって―――――」
それから三ヶ月後。 少年達に夏休みが訪れる。 和彦、直人、則夫。 寮に残された3人の少年たち。 3人だけの夏休み。 彼らの胸の奥には、三ヶ月前に死んだ、 悠の存在がくすぶっていた。 則夫が和彦に言う。 「和彦、君の冷たい目のためにね、悠はね!」 |
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則夫を戒める直人。 「おしゃべり」 「だってさ・・・」 「悠に一番に花を手向けなきゃいけないのは、 和彦なんだよ!・・・・・僕は、 悠はきっといつか帰ってくるって信じてるよ」 「ばかなこと言うなよ」 悠の死を信じたくない則夫と、 悠の死をつきつけようとする直人。 |
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悠を弔う為に湖に向かう二人。 白い花を抱いた和彦が二人の後姿を見送る。 悠の為に手向けようとした花・・・。 しかし和彦は湖に向かわず踵を返す。 それは、手向けられる事はなかった。 |
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部屋に飛び込んできた蜂を恐がる則夫。 蜂を踏み潰す和彦。 和彦を責める則夫。 「そっとつかまえて、逃がしてやればいいのに!」 「でも、則夫があんまりこわがるから・・・」 「君が殺した、・・・君が殺したんだ!!」 揶揄する則夫。 |
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悠は和彦に宛てて手紙を残していた。 「これが僕の愛。これが僕の心臓の音―――」 「悠、手紙をありがとう。・・・すてきな、遺書!」 手紙を湖に投げ捨てる和彦。 |
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そこに、一人の少年が現れる。 驚愕する和彦。 「まさか・・・・・・」 「幽霊でも見てるみたいだね。 そんなに珍しい?僕の顔」 明るく話し掛ける少年。 彼は、悠と同じ顔をしていた。 「生きていたのか、悠!」 「悠?なんのこと?僕は転校生なんだ。よろしく」 握手を求める少年の手を振り払う和彦。 「なんか文句あるの、君!!」 少年が挑戦的な瞳を和彦に向ける。 |
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少年の名は薫。 監督生の直人は 薫に好きな部屋を選んで使うように言う。 迷わず悠の部屋を選ぶ薫。 「この部屋は住んでる奴の匂いがしない。 よっぽどつまらない奴の部屋なんだろうな」 「三ヶ月前に死んだ子だ。」 「自殺した、僕のそっくりさんか」 「自殺!?誰がそんなことを言った!」 「和彦って、へんな奴」 |
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「悠が帰ってきたよ」 和彦に告げる則夫。 「あいつは悠なんかじゃない!」 そのとき、悠の部屋から音楽が鳴る。 薫がレコードを聴いている。 則夫が叫ぶ。 「悠がくれたのと同じ曲だ!! 本当に悠だ!悠が帰ってきたんだ!」 駆け出す和彦。 |
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薫を殴る和彦。 反撃する薫。 「やめろ!」 直人と則夫が止めに入る。 泣き出す薫。 「なんだよ!僕が何したっていうんだよ! いきなり殴るなんて、ひどいよ!ひどいよ。 ・・・ひどいよ・・・・・」 「ごめん・・・・」 我に返り、謝る和彦。 こうして、4人の夏休みが始まった。 |
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自習時間。 規律に従おうとせず自由奔放にふるまう薫。 和彦は薫の一挙一動を気にしている。 そんな和彦を気にかける直人。 |
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教室から出ようとする薫。 立ち上がる和彦。 「なんだよ、また殴ろうっての? 今度はやられないからね!」 おとなしかった悠と、正反対の薫。 「君は、薫なのか」 「悪い?」 教室を出て行く薫と、それを追う和彦。 直人がつぶやく。 「もう、かまうなよ・・・」 |
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和彦が薫を追いかけた先には、 白い花を抱きしめた悠が立っていた。 「悠!」 「和彦、おいでよ、湖の底へ・・・・。 一緒に行こうよ・・・・・・・」 湖に誘おうと、和彦へ歩み寄る悠。 悠が和彦の首に手をかける。 和彦が絶叫する。 「悠!!!」 |
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「和彦!!」」 直人の声が和彦を覚醒させる。 夢を見ていた和彦。 ふいに、部屋の外に気配を感じ、怯える和彦。 「あいつだ!あいつが立ってる! 悠が立ってる!ドアの外に!!」 突然呼吸が止まる和彦。 「和彦!まさかこんなことで・・・・和彦!! 僕の声が聞えないのか!?」 和彦に人口呼吸して蘇生させる直人。 |
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息を吹き返す和彦。 眠る和彦を見つめる直人。 和彦にそっとキスする。 |
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和彦と直人の部屋の前にいたのは則夫だった。 疎外感を感じる則夫。 「仲間はずれにされたんだな。入れよ。」 薫の部屋に招かれる則夫。 「ねえ、悠って奴の事、教えてよ」 「悠は、和彦のことが好きだったんだ。 和彦は、何もしていないのに皆から愛される。 やさしくもないのに好かれる。 だから僕は、和彦が嫌いなんだ・・・」 |
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薫は悠の生まれ変わりなんだ、と薫になつく則夫。 「薫、左の薬指に指輪してる!なんか意味あるの!?」 「うるさいんだよ!あっちへ行けよ!」 則夫を突き飛ばす薫。 泣き出す則夫。 「泣くなよな!! どいつもこいつもじめじめじとじと! やんなっちゃうな!」 イライラする薫。 しかし則夫をなぐさめ、遊びに誘う。 |
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二人を見て微笑む和彦。 驚く直人。 「薫を見て笑ったのか」 「明るい。あいつは悠じゃない。 いつも後ろ暗いような目で、 おどおどしていた奴じゃない」 「・・・気にいったのか」 |
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悠の思い出を直人に語る和彦。 「悠がくれた白い花を僕は、白い花だ、葬式の花だね、 と言って、湖に投げ捨てたんだ」 「もうよせよ、そんな話!」 「・・・あのときの罪だけでも、僕は地獄に落ちられる」 悠の重い視線と薫を比べ、薫のようだったら 悠を好きになれたかもしれない、と話す和彦。 「ごめん、いつもこんな話ばかりして。 君には関係なかった・・・」 「いや、なんでも話してくれ」 |
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「和彦、どうして薫なんか気にするんだ・・・・」 直人の心の中で、なにかが 芽生えてゆく。 |